堪能たる淫孔

 ――緋ヶ谷には、最近悩みがあった。数日前から、日常生活や家事のさなかで、時折己の後孔に――指かそれに類する細いもの――を挿入し掻き回されるようか奇妙な感触に襲われるのだ。
 子供がありの巣穴に指を突っ込むような無邪気さで、くぽくぽと胎内を探られる感覚はどうにも奇妙であり、同時にひどく恥ずかしいものだった。
「なんなんだ……」
 これが人為的なものとした場合、犯人は誰か。向こうも弄ってるものが何かわからなくて困惑気味なのかもしれないし、あるいは――こちらのことは知っているがこちらは知らないストーカーの類だったらと思うと恐怖に背筋が冷える。いや、でも限りない人の良さが取り柄なくらいの男にそこまで入れ込む奴も少ないか。
 とはいえ、弄られるのはほとんど家の中で家事をやっている時くらいだ。一度だけ買い物中に軽くされたことはあったが、大学の中で被害にあったことはない。一応、公的な場で大恥を晒すことだけはしていないのが唯一緋ヶ谷にとっての救いだった。
 しかし、今日は講義のない日である。家でじっとしているわけにもいかないだろう。緋ヶ谷はため息をつくと、重い足取りで自室を出た。
 その瞬間、またあの奇妙な感覚に襲われた。
 後孔を割り開かれ、ぬるついた何かが入り込んでくる。
(……っ!)
 緋ヶ谷はびくりと体を跳ねさせ、思わずその場にへたり込んだ。それはゆっくりと腸壁を押し開きながら奥へと進んでいく。
「は、ッ……」
 形状からして、おそらく指ではあるのだが。諸事情にてとっくに飼い慣らされている緋ヶ谷の媚穴は、その指程度の刺激にもたやすく反応してしまうようになっていた。
 ぐちゅりという水音と共に、それが前立腺に触れた。そのままぐりぐり、とんとん、と押し潰すように捏ねられれば、腰の奥に甘い疼きが生まれる。
(ぁ……だめだ、こんなところで……!)
 快楽に屈しまいとする理性とは裏腹に、体は素直に反応してしまう。被服に縛られくるしく疼く雄からは先走りが溢れ、滑りの良くなった下着に擦れて息を詰める。
(ん……ぅう……♡)
 ふわふわしそうな意識の中、緋ヶ谷は何とか立ち上がり、震える足を叱咤して洗面台に向かう。
 なんとか洗い場に手を付き、蛇口に手をかけるがそのタイミングで強くしこりを叩かれ、わなわなとはしたなく太腿を震わせてしまう。
「あ…ッ♡」
 漏れてしまった声はやけに大きく響き、緋ヶ谷の顔が羞恥に染まる。すぐに苦虫を噛み潰したような表情になり、精悍な顔立ちを歪めて耐えた。
「くそ……」
 悪態をつきながらも、再度ノズルをひねって顔だけでも洗おうと試みるが、そのタイミングで再びしこりを強く叩かれ、力が抜けてしまって上手くいかない。発達した太腿を、力の許す限りきつく閉じて悶えても、責めの手は止まらず、何度も弱点を攻め立てられる。
「あっ♡ゃ、やめろ……っ!」
 とうとう膝が折れてしまい、尻を突き出すような格好で床に崩れ落ちる。それを好機と見たように胎を這う指の動きが激しくなり、視界に閃光が散る。
 いよいよ絶頂を迎えると思った時、不意に携帯の着信音が鳴り響いた。それと同時に責めの手がふっと緩んだのを感じ取り、何とか立ち上がって携帯をとる。
 画面に表示された名前は、親友である風耶のものだった。
「はい、もしもし」
 平静を装って電話に出ると、寝起きだろうか、のんびりした声を聞く。
「おはようございます」
「ん、おはよ……お前がこんな時間に起きるなんて珍しいな」
「ふふ」
 やや機嫌のよさそうに微笑む声を聞きながら、ただ手持ち無沙汰に肉の壁を撫ぜるだけになってしまった指に、もどかしそうに腰をくねらせた。
「どうしました?」
「いや、何でもない……」
 聞きなれた風耶の声が耳元で響く度に、ぞくりと背筋に快感が走る。緋ヶ谷はそれに気付かれまいと努めて冷静な声で返事をする。
「何かありましたか? 随分とお疲れのようですが」
 ぬめる指先がしこりに触れ、ビクッと肩が跳ね上がる。
「だ、ッ♡ いじょうぶ、だって…」
 言い聞かせるように呟くと、緋ヶ谷は気を取り直すようにして口を開いた。
「それよりどうした、急に電話をかけてくるだなんて」
「なんとなく、ではダメでしょうか?」
「いいけど……」
 何となく、とは何とも言えない理由である。だが、風耶の性格上、特に用事もないのに連絡してくることはほとんどない。着地点のない世間話が嫌いな彼は大抵緋ヶ谷の持ちかけた話題への返答か何かしら用事のある時くらいだったのだが。
 不思議に思いつつも、緋ヶ谷は、己を取り巻いているこの感覚からの逃避を選んで、会話を続けようとする。
「もしかしてまた眠れなかったりしたか?」
「いえ、珍しく早寝早起きできただけですよ。不眠ではないです」
 時折、母が子を愛でるように、なでなでと擬音にハートでもつきそうなやわさでしこりを撫でられ、すっかり悦楽を覚え熟れてしまった緋ヶ谷の体は簡単に反応してしまう。
「ぅ……♡」
(だめだ、集中しないと……)
 必死に理性を保とうとするも、風耶の穏やかな声音で囁かれる言葉はどれも脳髄に甘く響き、蕩けそうになる。
「……んー、にしても、その時間までお家にいるってことは多分お休みの日ですよね」
「あ、ああ、そうだけど……?」
 つぷ、と後孔に指先を埋められる。
 いつの間にか増やされていたらしい。二本の指がゆっくりと抜き差しされ、腸壁を押し広げるようにぐぱぐぱと拡げられ、そのままぐちゅぐちゅと掻き回される。
 快楽に屈するまいと歯を食い縛っても、内壁を擦られれば勝手に甘えたような吐息が漏れてしまう。
(くそ……っ♡)
 なんとか意識を逸らそうと、緋ヶ谷は適当に相槌を打つ。
「そういや、お前も休み?」
「ええ、…家でゆっくりしようと思ってます」
「ん、…ッ♡ なるほど、な」
「はい。まあ……読書でもしようかな、と思っているんですが」
 その合間にも、とんとん、と優しくノックをするように前立腺を叩かれ、きゅんきゅんと奥が疼く。
「ぁ、あ、そこぉ……♡」
「緋ヶ谷さん?」
「あッ、ぅ、ううん、なんでもない……」
「そうですか。それでですね、今読んでいる本があるんですよ。それ、けっこう面白いのでよければ」
「ふ、ぇ……♡ ぁ、わかった、今度、借りてみる……」
「お願いしますね」
 ずぽっ、と一回勢いよく指を引き抜かれ、怯えていたら今度は三本まとめて挿入された。
「ふ、っ……♡」
 指をばらばらに動かされ、思わず鼻から抜けるような甘い声が漏れてしまう。
 だが、それでも何とか堪え、平静を装う。
 指の腹がしこりを掠め、押し潰す度にぴくっぴくっと肩が跳ねる。
 そんな状態が暫く続き、緋ヶ谷はもう限界だと言わんばかりに身を捩った。
「ぁ、あ”ッ♡ ふ…んん……」
「緋ヶ谷さん?」
「ん、んん……ッ♡」
「なんだか具合悪そうですね」
「ぃ、いいや、何でも……ない……」
 指先が肉壁を引っ掻いた瞬間、ビクンと腰が揺れた。だが、それを悟られたくなくて、誤魔化すために必死に言葉を紡いだ。
 が、抵抗も虚しく、指の動きは緋ヶ谷を追い詰めるようにさらに激しさを増す。
(ぁ、ッ♡これ、だめだ、ッイく……!)
 ぎゅうっと目を瞑り、迫り来る絶頂感に耐える。食い締まる媚肉を割り開くように、しこりをかりかりと遠慮なしに弾かれる感覚に、緋ヶ谷の理性が焼き切れていく。
「はッ♡ ゃ、めろ……!」
「緋ヶ谷さん?」
「なんでも、な……ひッ♡ …へッ、ぉ、」
「どうかしました?」
「ぁ、あっ、…う、やだ、や、ッ……いぐ、~~~~~ッ! ♡」
 緋ヶ谷の体がびくんと跳ね上がり、同時に携帯を落としてしまった。
「あら」
「……」
「緋ヶ谷さーん」
 電話の向こう側から呼びかけられていることにようやく気付き、緋ヶ谷は慌てて達したての体で急いで携帯を拾い上げる。
「は、はい……」
「……それで、今日一日フリーですし、お互いやることもないのでよければお出かけでもと思ったんですが……なんか携帯落ちた音しましたけど大丈夫ですか?」
「ああ、うん、大丈夫……」
 ――もしかして、気づかれていない? あの声を出しておいて――?
 あまりに平静な風耶の声を聞いて、首を傾げてしまう。どう考えても喘いで絶頂の兆候すら知らせいたようなものだ、バレるだろうに。風耶それを取り逃すほど馬鹿なわけは無い――寧ろ好き好んで理学科なんかにいる彼は、スポーツ少年だった緋ヶ谷よりもずうっと賢い。唯一、数学の点数が緋ヶ谷に負けるが……疑問に思いながらも、緋ヶ谷はその疑念をとりあえず頭の隅に追いやり、再び会話を続ける。
「それで、どこ行くんだ?」
「そうですねえ……緋ヶ谷さんはどこか行きたいところあります?」
「ん……そうだな……」
 そう言われても、緋ヶ谷には特に希望はない。強いて言えばこの間洗剤を切らしそうなことに気づいたくらいで、しかしそれを伝えてみれば、ふむ、と風耶が相槌を打った。
「ショッピングモールにでも買い出しに行きましょうか」
「そうするか」
「はい。……準備あるので、途中で緋ヶ谷さん拾ってってくださいね」
 そうして決まった目的地への道順を軽く確認すると、通話を切った。
 途端に訪れる沈黙。緋ヶ谷は深く息を吐き出すと、洗面台に項垂れかかった。
(どうすっかな……)
 電話口で謎の手に責められて達してしまったことに加え、射精も上手くいかず下衣が割と悲惨なことになっている。なぜだか尻回りは湿った感じはしないのだが、取り敢えず下着を脱いでみると、案の定というべきか白濁の交じった先走りがべっとりと付着していた。我ながら絵面が酷すぎる――と溜息をつき、首を振る。
(こりゃ、洗濯しないとな……あと風呂にも入らないと……)
 シャワーだけでも浴びようと思い、浴室へと向かう。
 服を手早く脱ぐと、シャワーノズルを捻って湯を出す。肝心の謎の指だが、一度緋ヶ谷を達させれば満足したのか今はすっかり引き抜かれ、今のところ興味を持たれている様子は無い。
 ――なんだったんだよ、あれ。
 結局何が何だかわからないままだ。まあでも、終わったならいい。これ以上考えるだけ無駄だろうと思考を放棄する。
 一通り体を洗い終え――ついでに濡れてるなどといった実害はなくとも弄られている感覚はあったので一度尻も洗浄しつつ確認し――てから、風呂場から上がり、バスタオルを手に取る。
 てきぱきと着替えてしまってから、……別に機嫌が悪いわけではないが、ため息をついた。
「さて……」
 電話口で行きしなに拾っていってくれと言っていた風耶の為に、肩がけのボディバッグを背負って家から出る。鍵をかけた後、しっかりとノブを何度か捻って確認し、靴先を整えたあとに歩き出した。
 
 ◇
 
 ぴんぽん、とチャイムを鳴らしてそう経たないうちに扉がなる。
「ん、どうぞ」
「どうぞって、出かけるんじゃねえのか」
「あの、レポート書き進めてて準備してません。ちょっと急ぎでまとめてくるので、その間だけ」
 相変わらずだな、と肩を竦めて緋ヶ谷は玄関に上がる。妹のものだろうか、合気道の賞状が飾ってあるのにふっと目を細めて、ぱたぱたと二階へ上がっていく風耶の姿をみとめながら椅子に腰かける。
「……風呂場開いてるし」
 急ぎで入ったのか、ゆうべか朝早くに入った際に閉め忘れたのか、風呂場への脱衣所に続くドアが空いているのが見えてしまって、閉めようと立ち上がり、近づいた。
 
 閉めようと扉に手をかけた段階で、妙なものに気づく。
「……」
 やや、粘液でてらてらと光る、男ならまあまあ見慣れたそれ。……重量感のあるオナホールが、脱衣所の洗面台に置いてある。
 ――あいつも、こんなもん使うんだな。と、ほんの少しだけ微妙な気持ちになりつつまじまじと手に取ってそれを観察する。オーソドックスな柔らかい素材だ。
「……ん、うわっ!?」
 内部構造を確認しようと穴の縁に手をかけた瞬間、自分の媚穴にも同じ感覚がして、慌てて手を離す。
「……おお……」
 恐る恐る、穴の縁をなぞってみれば、やはり同じく縁を焦らすように撫でられる感覚が。……意を決して穴の中に指先を突っ込んでみれば、ぬるりと――先程まで、ある程度遊ばれていたのだろう。潤滑油のまとわりつく感触と共に、己の体にも肉壁をかき分けて指の挿入される生々しい感触が伝わってきてしまう。
「ッう、ぉ……♡ …………いやいやいや」
 このまま遊んでいると何か人として大事なものを失いそうで、指を引き抜き慎重に位置を戻そうと、する。
 が。
「こちらにいたんですね」
「うおーッ!?」
 いつの間にか背後に立っていたらしい風耶に声をかけられ、思わず後ろ手に例のオナホを引っ掴んだまま振り向いてしまった。「お、お前、これ……」
 動揺しつつも、自分の状況を何とか飲み込んで言い訳するようにそれを見せようとした緋ヶ谷だったが、その腕を掴まれ、ぐいと引っ張られてしまう。
「それね、買った覚えは無いんですが、すこし前に自室の机に置いてあったんですよ」
「はあ……」
「別に使う義理もないので中身だけ確認しつつ放置してたんですけど……なんというか、」
 そう語る金色の瞳が突然緋ヶ谷をみとめたものだから、思わず心臓が跳ねてしまう。
「答え、出たみたいですね」
 そのまま緋ヶ谷の手の中のものをひょいと取り上げると、それを元あった位置にに置く。
 そして、ふふ、と小さく笑った。
 ――ああ、この笑顔には、よくよく覚えがある。己を虐めている時の、愉悦混じりの微笑みだ。
 若干の嫌な予感が背筋をがりがりと引っ掻く感覚に、緋ヶ谷は眉根を寄せた。
「つか、……それ使ってしたりとかは」
「いえ全く。そこのところ旺盛な緋ヶ谷さんと違って、私そういった欲がまるでないので」
 持て余してたんですけどねえ、と外れない視線に緋ヶ谷はじり、と後退りする。
「でもまあ、いい機会です。試してみましょうか、色々と」
「……何を?」
「これ、見た感じ貴方の方と繋がっているみたいなんですが、このとおり私は一人で使うことはありませんので」
 ――ここには肉体関係のある男が一組、しかしいつも上である風耶はこういったものは使わない。だったら、求められる答えは一つだけだ。
「それに緋ヶ谷さん、最近彼女さんとまた別れて、ご無沙汰なのでは?」
「ひえ……」
 要するに、「これにお前のちんちんぶち込んで抜いてやろう」ってことだよな? と頭の中で結論付けたところで、ぴしゃりと脱衣所の扉を後ろ手に閉められる。……退路が絶たれた。
「さて、」
「ちょ、ッな、なあ、風耶! 待てよ!」
 ずいずい近寄ってくる風耶の肩を掴み、なんとか押し留める。
「なんです」
「……いや、買い物行くって……」
「そんな話もしてましたねえ」
 なんて、軽くあしらって風耶は緋ヶ谷の服を引っつかみシャツを引き上げる。鍛えあがった、たわわな胸筋が露わになって、緋ヶ谷の表情に羞恥が吹き上げた。
「こら、ッ! だめだろ」
 抵抗する緋ヶ谷に構わず、すっかり芯を持ち始めた乳頭を指先でぐり、と刺激すると、びくりと体が震える。
「う、っ」
「口では嫌がるくせに」
 そのまま指で摘まむようにしてくにくにと弄れば、みるみると硬くなっていく。ふっくらとして艶をもつ褐色の胸に咲く健康的な色の乳頭が、指の合間をぷりぷりと逃げ回る度に、びくびくと素直な緋ヶ谷の身体が悦んだ。
「ふ、ぅ……っ」
「ふふ、かわいい」
「ばか、やめろ……っ」
 緋ヶ谷はぎゅっと目を瞑り、身をくねらせる。一層の愛撫を強請るようにも見えるそれを咎めるようにもう片方の胸を捕まえて、乳輪の境目から緩く搾るように指を這わせ、肉感を堪能するようにゆるりと揉みしだく。
「ん、うう……っ」
 指先が乳頭を掠める度に焦れたように身を震わせる様を、満足げに見下ろして笑む。そのまま指先を滑らせて、脇腹をつうとなぞると、緋ヶ谷は息を詰めた。その中身をすかして愛でるように、はっきりと均整のとれた筋肉のついた腹を撫で、下腹をとんとんとさする。
「ふ、うう……ッ」
「ふふ、もう元気になってますね」
 ズボン越しに股座に手をやられ、緋ヶ谷は思わず腰を引く。
「あ、~~ッ」
 ぴんとはったテントを可愛がるように指先で詰られて、思わず首を振る。
 円をかくように指先で先端をつつかれてしまえば、布地越しにもどかしい快感がじわりと広がってしま。
「ァ、あっ、……やめ……っ」
「意外とこういうねちっこい虐め方されるの、好きですよね」
 そのままかりかりと鈴口をかるく引っかかれると、じれた悦に涙が浮かび、浅ましく腰を揺らしてしまう。
 そのままベルトを外され、ジッパーから下着ごとずるりと引き摺り降ろされた。既に完全に勃ち上がった陰茎がぶるりと飛び出し、空気に晒された亀頭は熟した桃のような濃い色合いを見せながら、先走りを垂らしてひくんと震えている。
 相変わらず、我ながら立派なそれに緋ヶ谷が息を詰める。――今日ばかりは、そのデカさに感嘆してる暇は無い。
「この奥、私じゃ突っつくくらいしか出来ませんもんね」
 臍の下に、とん、と指を当てられて思わず大袈裟に体を跳ねさせる。
「ッ、あ……」
「緋ヶ谷さん、せっかく立派なものを持ってるんですから楽しみましょうか」
「、!? む、むり…! こんなん、無理、お前のがいいっ!」
 そう言うなり、風耶は例のオナホを手に取ると、そのまま緋ヶ谷の雄に入り口を押し付ける。恐怖がすぐそこまで来ていることにぶるりと震え、風耶の手首を掴んで緋ヶ谷はしきりに首を振る。
「あら、嬉しいこと言ってくれますね」
「ひッ……」
 その凄艶に微笑まれて、頬がひきつる。
 ――こいつは、引き際が上手い――決して被害の加わることはしない、と今までの経験上よく分かっていたのだが、それでも、怖いものは怖い。
 ぬぷ、と侵入を許す感覚と共に、安心させるべく優しく胸板を撫で続ける風耶の、低いながらもどこか安心する体温を感じて、緋ヶ谷はほんの少しだけ喉を引きつらせて、それを享受する。
「ぅ、お”…、ッ?」
「あんまり急にすると痛いでしょうから」
 ゆっくりと、感覚だけでも己の雄を後孔で食い締める圧倒的な圧迫感に、緋ヶ谷は唇を噛み、額に汗を浮かべる。
 風耶の指が、そっと口元に差し出された。反射的にぱくりと食らいついて舌を絡めると、ふふ、と吐息混じりに笑う声が鼓膜を震わせた。
「子供みたい」
「ん、…ッヴ、ふー……ッ♡」
 熱く、脈打つ竿にしっとりと肉を割開く形のいい雁首。――自分の雄の魅力を、こんなところで知るとは――抵抗を辞め、鍛えあがった綺麗な腰を淫らに揺らしながら、緋ヶ谷は眉根を寄せた。
「は、ぁ……っ! あ、ァ”あ……っ♡」
「ふふ、気持ちよさそうな顔して」
 妬けちゃいますね、なんて流麗な声を流し込まれるだけでもう仕上がってしまった身体には猛毒だ。
「ふ、うう……っん、ぐ……ッ」
「ほら、ここ好きでしょう」
「ぅ、ォ”お……~~っ♡」
 こちゅ、と腹側のしこりをしっかりとした亀頭で潰されて、甘えたような濁った喘ぎが漏れてしまう。胎壁が雄を歓迎するように絡みつくさまを、今度は己の雄を扱くホールによって知らされる。己の穴を己の雄で感じ、己の雄で己の穴を穿たれることを悦ぶ倒錯的な快楽。
 そんなことを思い知ってしまえば、緋ヶ谷の中にあった最後の理性も崩れ落ちそうになってしまう――ごつごつと、ひらきつつある最奥の肉襞を構わず弄ばれ、その度に腰が跳ね上がる。
「あ、ッ? なん、…~~ッ♡ だめ…そこ、ッ」
「何がダメなんですか」
 緋ヶ谷は首を振って拒絶の意を示すが、それは形ばかりのもので、風耶の腕を掴む手にも力はほとんど入っていない。
「そこ、おく、……っ」
「うん」
「……ッ、ぉ、……いれたらっ、おかしく…♡」
「私のじゃ届きませんもんね」
 ちょうど今しがた突いているあたりを指先で愛でるように撫で、時折押し込まれるのに、身体のうちがわから熱を吹き上げて緋ヶ谷の壮健な肩に赤くフラッシュがかかり、びくびくと震える。
「は、ァ”……~~ッ♡ やめ、……~~ッ♡」
 ――肉壁は最奥という未知を割開かれる恐怖に怯え、雄は窪んだ入り口と濃厚な口付けを交わすねっとりとした動きに骨抜きにされ、相反するふたつの快楽が身体の中で踊って緋ヶ谷の脳髄を甘く焼いていく。
 鍛えあがった太ももをかわいそうなほど弱々しく震わせて崩れ落ちそうになる度、風耶に腰骨をしっかりと捕まえられて立たされてしまい、その度に角度を変えて前立腺を押し込まれてしまえば、もはや緋ヶ谷は成す術もなく風耶のなすがままだ。
 そのまま、ぐり、と柔らかい樹脂塊を押し付けられれば、ぐずぐずの最奥を押し込まれる快と蕩けた肉に雄をしゃぶられる悦で緋ヶ谷の視界は真っ白に染まる。
「ぅお〝ッ、……~~ッ♡ ぁ、はいる、…おく、はいっちまぅ〟…ッは、ァ”……ッ♡」
「苦しいですか」
「ひ、ィ”……~~ッ!? 」
 ずるずるとホールが引き抜かれていく感覚に、ぶるりと緋ヶ谷は身をわななかせる。無邪気な手管を粧うそれが、今からとんでもなく酷いことをしようとしているのが言われずとも理解出来て、必死に腰を、首を揺らして引き抜いてしまおうとするもきつく吸い付く肉襞を他ならぬ緋ヶ谷自身の雄の、たっぷりとした雁首にがりがりと引っ掻かれるだけで軽く達しそうになってしまって、上手くいかない。
「あ、ァ〝、♡ ア〟っ、~~ッ♡」
「自分の穴でご自慢のものを咥えこんで、こんなに食い締めて。よっぽど気持ちいいの大好きなんですね」
「ぅ、あ〝ッ、ぁ〟ッ、やだ…ゃ、めろッ…~~ッ♡」
 オナホールの入口に引っかかった瞬間、――根元まで勢いよく挿入され、ぐちゅ、とどちらともとわず音がしたと共に、――最奥に嵌められて目の前に星が散った。ばちばちと脳細胞を焼くあまりの衝撃に、呼吸を忘れはくはくと金魚のように口を動かし絶頂する緋ヶ谷を、なおも責め立てるように、小刻みなピストンが開始される。
「ぁ、あ〝ッ、! ♡ あァ〟……っ! ♡ ぉ〝、ッふー、か、ッだめ♡ だめ、いま、おれイ〟ってる〝、からァ〟……ッ!」
「わかってますよ」
「ぉ〝、ッあ〟……~~ッ!?」
 好きな男の腕のうちに抱きとめられて逃げることも出来ず、容赦なくホールで責め立てられ続けてしまい、緋ヶ谷は涙を浮かべながら喘ぐことしか出来ない。己の媚びた穴を他ならない自身の雄でひらき、無遠慮に穿ち、肉の弁に食らいつくのがただただ気持ちよくてたまらない。一度吐精したせいか滑りと粘度を増した熱いホールの中を、自分のもので蹂躙し続けながら、とうにおかしくなった頭で必死に言葉をつむぐ。
 ――こんな、こんなもの……っ――
 力を失い、はしたなく揺れる胸筋を、風耶の手が掴む。休む暇さえ与えず、ぐりぐりと児戯めいた乱雑な手つきで乳頭を虐められ、二の句は霧散した。
 ――あ、たま、とけそ……♡―― きゅん、と緋ヶ谷の脳髄が、背後で微笑む凄艶の気配に痺れる。
「ぅ〝、ぉお〟~~ッ! ♡♡ぃ〝、く、またいく〟……っ♡」
「はい、どうぞ」
「ぉ〝ッ、ぉ〟ッ、~~ッ!! ♡♡」
 どく、と脈打つ雄を、痙攣する肉壁がなおさらにぎちぎちと締め上げる。そのどちらもの感覚を同時に身に叩き込まれては、もう堪えようがない。
 緋ヶ谷は獣じみた声を上げながら、びくんびくんと派手に身体を跳ねさせて達してしまった。
「よく頑張りました」
「はー……っ、は、はは……ッ♡」
 あかるくなって、ハートが飛び交うようなとびかけの脳みそのまま、緋ヶ谷は顔を上げた先にある洗面台の鏡に享楽に笑んで悦ぶ己の顔を見る。快活そうなかんばせはだらしなく緩み、精悍な眉根はとろんと右肩下がり――ひどい顔だが、バカになってしまっている今の緋ヶ谷には正確に知覚はできない。
「緋ヶ谷さん、自分のものでもうここまで良くなれるんですね」
「ん…?」
「一緒に入れたら壊れちゃうかも」
「ぁ……♡」
 後ろから耳元で囁かれて、ぞくりと身体が震える。
 ――いっしょに? この妙ちくりんなオナホールでセルフセックスさせられてる後ろから、風耶の雄を突っ込むと? それ、所謂二輪挿しというものでは。知りたくなかった答えに勝手に気づいてしまった緋ヶ谷が、やや青ざめて身を縮める。
「さ、すがに、死ぬ…」
「どうやら共有してるのは感覚だけなようなので、怪我の心配はいらないと思いますけどね」
「そういう問題じゃねえんだって」
 そんなことすれば、まず間違いなく緋ヶ谷の尻は天変地異を起こすだろうし、よしんばその後の使用に耐えたとしても人間として割と大事なものを喪失しそうで怖い。
「じゃあ、これ要りませんね?」
 ――とはいえ、いざ後孔にその凄艶をうかべる男の雄を宛がわれると、それはそれで困るというか、なんというか。
「…ァ、……♡」
 喉が、ひきつる。つい数秒前まであれほど怯えていたはずなのに、すっかり期待してひくりと求めだす己の浅ましさに、緋ヶ谷は呆れを通り越してもはや笑いすら込み上げてきてしまう。これを受け入れたら最後、きっと頭がおかしくなって、戻れないところまで行ってしまうかもしれない。それをどこかで待ち望んでいる自分がいるのも確かだった。
 あれだけよがっておいてどの口がとも思うが――自分のより、こいつのがいい。――風耶のが、ほしい。
「緋ヶ谷さん」
「……いる、から…はやく、しろ……ッ」
「ふふ、素直でよろしい」
「ぁ……♡」
 ずぷずぷと、熱杭を押し当てられて、蕩けた肉筒は勝手に吸い付いてしまう。散々弄らされた内部を割り開かれるだけで、腰骨が溶けてしまいそうだ。
「あ、ァ”、あ……っ! はいっ、て、……~~ッ」
 熱くうねり、滑りの良くなった胎内をずるりと一気に奥まで貫かれてしまい、緋ヶ谷は背を仰け反らせて感じ入る。何よりも愛しいそれが、こつ、と結腸弁を押し上げる感覚だけで、視界が明滅するほど押し寄せる多幸感にがくがくと膝が震えて折れそうになる。
「ふふ、あつい」
「は、は……っ、……ん、んぅ……っ♡ ぁ、……っ」
 背後から伸びてきた手に顎を掴まれ、振り向かされて唇を奪われる。ぬろ、と舌を絡ませられれば、きつく抱きすくめられながら、ぐちゅぐちゅと咥内で浅ましく水音を立てながら、求める。そのどさくさに、ホールを己の雄に宛てがわれて、ぶるりと身体を震わせた。
「は、~~ッ」
 これから来るであろう衝撃と快楽に、期待で心臓が高鳴る。
 そして次の瞬間、ずぶりとホールの中に挿入され――ずん、と、突き上げられた。腹の奥底で、鈍く重い音がする。それに、やばいの、くる――なんて頭の中で警鐘が鳴ると同時に、最奥の壁がぶち抜かれた。
 目の前に火花が散った。
 一瞬意識が飛んだが、すぐに激烈な絶頂に押し上げられ、強制的に覚醒させられる。
 脳髄を灼く快感に、びくんと身体が跳ねる。
「お、ォ”……ッ!? ♡」
 己の雄を擬似的に感じて荒れ狂っている胎壁を、掻き分けるように風耶が抽挿を開始した。実体のある愛しい熱に前立腺を擦られるたび、緋ヶ谷の身体が跳ねる。
「っひ、ぎ、ぃいい〝ぃ…~~~~ッ! ♡ ま、まっへ、ぇえ〟、いまイ”って、う、うごかさな、で……くれ…、ッ…!」
「緋ヶ谷さん、自分で自分の中漁るのと、私に虐められるのとじゃどっちがすきなんですか」
 がっつくように体を荒し回る二本の雄に――片方は実態こそない、間接的なものだというのに――容赦無く穿たれて、過ぎた快感にぼろぼろ涙がこぼれ落ちる。
 身体を好きに高められる被征服欲と、自らの雄を使って質のいい肉壺を穿つ支配欲求が満たされ、同時に緋ヶ谷の思考がどろりと蕩ける。――だめだ、これ、すごい――
「あ、ァ〝あ、~~……っ! す、き……♡ っおまえ、の……ふ、うかのォ〟、じゃない、とッ」
「あら、熱烈ですね」
「ぅ、グッ♡ ぅお〝、ぁああ〟……っ! ♡」
「そんなに私のことがすきなんですね」
「ひ、ァ〝……ッ? ぁ、!? そこ、さわ、っちゃ――ぁあ〟あ”ぁアぁぁッ!! ♡」
 たわわに実った胸筋を揉みこまれ、乳頭をぎゅうと摘まれて、悲鳴じみた声を上げてしまう。がくがくと腰が震えたので、おそらくこれで達している。
「ここも好きなんですね」
「ひゃ、ら、ァ〝、……~~ッ、ち、ちくび……っ、ん、ンぅう〟ゥ~……ッ!? ♡ ら、らめらっへ、いっひょにしちま、ゃ、や……ッ」
 こりこりと捏ねる様に弄ばれ、もう片方も同じようにされてしまえば、もう堪らない。腰から下が馬鹿になってしまったみたいにがくがく痙攣して止まらず、緋ヶ谷の視界にはチカチカと星が舞う。今しがた自分の胎に二本ほど雄の差さっている感覚すら、遠く霞むようだ。
 こんなにも気持ち良くなってしまっては、駄目になってしまう。
 ――こんな行為なしでは、生きていけなくなってしまう。
 そう思うと、恐怖と共にどうしようもないほどの興奮を覚えて、ぞくりと背筋が粟立った。
 ――でも、壊されるくらいめちゃくちゃにしてもらいたい。こいつは――好きな男を手の内ににぎり込んで外側からゆっくりと押しつぶしていくのが好きなやつだから、きっとこいつの手で心臓のまんなかまで支配されて、めちゃくちゃに乱されたら、こいつは、喜ぶ。よろこんでくれる。……それは、とてもうれしい。
 快楽漬けになった頭では、まともに物事を考えることもままならない。ただひたすらに、愛しい男の愛撫を享受する。
 忘れかけていた、己の雄をきつい肉壺でめちゃくちゃに扱きとられる感覚と、媚穴を己と風耶の雄でがぽがぽと犯され、さらに自分の雄に結腸をぶち抜かれる快感が、再び身体を苛んでいく。
「ぁ……あ……ッ! おく、あたって、る……ッ! おぐ、おぐ、ぎもちぃ、ィッ! ん、んぁ、あぁ”ぁ~~……! ♡」
「ふふ、自分で自分の奥えぐるの、癖になります?」
「ん、ん〝ん~~~……っ! やめ、やめろぉ〟……! はげしく、しないれぇ……! またイく、イくイくイ”、……ッ! ♡」
「動かすのがどっちも自分だから、ちゃんと気持ちいとこ当てられますよね」
「イ〝っでる……ッ! イ〟ッてる、のに……ッ! ぉ〝……っ、あ、ぁ〟あぁ”ぁあ……ッ! ♡」
「かわいい」
 びくんと身体が跳ねるたび、びゅるびゅるとあっけなく吐き出される精液がホールの中に溜まっていく。やはり、健康体の大学生だからか、ホールの入口が、あふれだした緋ヶ谷の精液によって、ごぷりと泡を立てた。それすら余りある潤滑剤として、ホールが運動を重ねる毎に熱くぬめり滑る媚肉の中を自身で掻き分けていく。
 耐えきれなくなって腰を引けば、風耶に腰を遣われて快楽が走り、腰を押し出せばこんどは自らの雄で最奥を荒らし、ねっとりと糸を引いて食い締まるホールの感触にだらしなく太ももを震わせる。終わらない絶頂地獄に意識はとうに限界を迎えているのに、それでも緋ヶ谷の身体は貪欲に快感を拾い上げては、その度にだらだらと情けない声を漏らした。
「ふ、ッぅう〝♡ァ〟、イ〝っだ! 、 イ〟っだがらァ〝! ♡ もうイ〟きだぐな、ッあ〝ァ〟ぁァ”――ッ! ♡」
「気持ちいとこいっぱいでおかしくなっちゃいますね」
「もぉ〝、なってぅ〟!! ♡おかしくなってるか、ぁ〝! ♡ あ〟ッ、ず、ずっと、イ〝ッ♡…ってぅ〟……ッ!」
「じゃあ、もっとおかしくなっちゃいましょうか」
「も、もうやら……ッ! ゆるひて……ッ! ♡ イきたくない……ッ! ♡ もぉッ、イきだぐない”……ッ! ♡」
「あら、怒ってませんよ。いいこですね」
「あ〝、ェ〟ッ! ♡」
 緋ヶ谷の胎内をあやすようにずぷりと再び挿入すれば、その瞬間に絶頂を迎えたのか、びくんと腰を跳ねさせて舌を突き出す様は、あまりに可愛らしい――普段子供や老婆を道すがらにたすけて明るく笑っている、太陽のような「お兄ちゃん」からはあまりにも想像をつけられない、裏の顔とするにもあまりあるほど異常かつ淫靡なものだった。緋ヶ谷はすっかり快楽漬けになったようで、風耶が動くたびにひんひんと鳴いて、広い背をこどものように震わせて悦んでいる。その姿は、風耶の嗜虐心を煽るには十分すぎるほどだった。
「緋ヶ谷さんも贅沢ですよね。自分のいつも使ってるものの味を知れて、ついでと言わんばかりに惚れた男のそれも舐めしゃぶってやれるんですから」
「ぁ〝、あ〟ァ〝あ〟ぁ〝あ〟~~……ッ!! ♡」
「ふふ、だめになっちゃってますね」
 未だびんと元気に空を向く緋ヶ谷の雄に容赦なくホールを填めて腰の動きの間に扱いてやると、結腸を好きに押し開く己の雄の感覚に泣き喘いでいるようだった。奥ばかりに気を取られてお留守な前立腺を、風耶が腰を使って押し込んでやると、緋ヶ谷はその途端にばちばちと電流でも流されたかのように激しく震え、洗面台の縁を掴み、背を丸めながらも膝を開いて、傍目には無様な体勢で快楽を享受する。そのごつごつとしてあたたかさのある緋ヶ谷の手に己の手を重ね、そっとさすってやれば泣き止む赤子のように徐々に体のこわばりは解け、代わりに甘えん坊のようにとろりふわりとした媚肉がきゅうと甘やかに絡みついてくるのだから堪らない。
「ん、んぅ……♡ ん、んぅう”……っ♡」
「かわいいですね」
「ぁ〝、あ〟ァ〝~~……ッ!? あ〟ぅ〝、ぅう〟……? ♡」
「……どうせなら空イキも覚えちゃいましょうか、ねえ?」
 ホールを緋ヶ谷の亀頭ギリギリまで引いて、ぐりぐりと回転させるように責める。それだけでひくひくと腹筋の下のところが震えるような快感に苛まれるというのに、媚穴に一番太い部分を入口に嵌められたままぐりぐりとされる法悦が及ぶのでいけなかった。馬鹿みたいに喘いで、腰をカクカクと振って悶えるしかできない。これじゃ奥の方が寂しいですもんね、なんて狂言と一緒にこんどは風耶の雄をしっかりと咥えこまされて、そんな、男としてあまりにもきつい責めを受ける。
 なのにそれが堪らなくて、甘えた声で善がってしまう。そんなことを何度も繰り返されたら、もう戻れない。
「やら〝ァ〟、ァ〝あぁ〟ぁ〝ァ〟~~~……ッ!! ♡ やめ、ろ〝、やだ、やァ〟……ッ! ♡ ちんこ壊れぅ〝うぅ〟ぅ……ッ! ♡」
「こうするのが一番効率いいんですもの」
 ぐりぐりと己の雄を頭だけ甘だるくしなる媚肉に差し込んで掻き回す、その感覚。たしかにひっきりなしの悦楽が襲うのに、どうしてだろう雄が吐精できない、もどかしさ。ぶるぶると身体を震わせながら泣き喚くことしかできなくなってしまう。
 気持ち良すぎて辛い。でも、もっと欲しい。緋ヶ谷がそう思っていることなどまるで無視して、風耶は無慈悲に責め手を激しくする。すっかり口を開けた肉の弁を、ひっきりなしに叩くその熱がいとおしくてしかたがない。
 こんなの、頭がどうにかなってしまいそうだ。
 ――でも、こいつに壊されるのは、きっと幸せだ。
「ッあ、あ、ぁああ〝ぁ〟ぁあ〝ァ~……ッ!! ♡ またイ〟ぐ、イ〝ぐイ〟ぐイ”ぐ……ッ!! ♡」
「何回でもどうぞ」
 ぷしゅう、と堰の切るあわれな音を聞いて、風耶は目を細めた。緋ヶ谷の鍛えられた身体の、立派な雄の嵌ったホールの入口からぼたぼたと潮がふいて溢れる姿は、酷く淫猥だった。
 風耶がホールをゆっくりと引き抜けば、それすらすぎた快感なのかか細い声を出して緋ヶ谷が善がる。きっと今頃、己の雄をずるずると逆行される悦を肉の隙間で感じているのだろう。
「んォ〝……! ♡ あぁ〟、ぁ~~~、ぁ……っ! ♡ イ〝ってる……ッ! イ〟っでるがらぁ”……っ!」
「きもちいいですね」
「ンお゛…ッ、ぉ…――ッ!? ♡ ……ッあ゛ぁ、ッぅグ♡」
「自分のものでこんな上手によがれるなら、私のいらないかもしれませんね」
「ぇ…あ、いる……ッ! ♡ お前のがいちばん、ッすき……ッ! ♡」
 抜かれそうになった雄に、あわてた肉壺がぴたりと張り付く。きゅうきゅうときつく締め上げて、愛しい熱が出ていかないように健気に媚びていた。
「欲張りさんですね」
 そう言いながらも、風耶は口角を上げ、再び緋ヶ谷を追い詰めて行く。それを嬉々として受け入れて、緋ヶ谷は喉を反らしながら快楽に酔っていた。
 ホールの凹凸に食い締められ、腰を引けば風耶の雄に前立腺を押し潰され、己の雄には結腸を優しく叩かれる度に、馬鹿になったように潮をふきあげ、びしゃびしゃと足元のマットを濡らす。
「あ〝ぁ〟、ぁ~~~……っ! ♡ イ〝、い〟ぃ〝……~~っ! ♡ イ〟っ、へぅう〝、イ〟れ、ぅ〝う〟……ッ!! ♡」
「きもちいいですか?」
「ぎもぢ、い〝いィ〟……ッ! ♡ イ〝い、い〟い……ッ! ♡ ァ、ァア”、ァ、ァ~~~……ッ!! ♡」
「よかった。いっぱい褒めてあげますね」
 ホールを嵌められたまま、これを責める男よりもずうっとしっかりした、緋ヶ谷の腰が跳ねる。緋ヶ谷はもう限界らしく、必死に頭を振って快楽を逃そうとしている。そんな姿がいじらしい。とはいえ、風耶もまた高ぶってきているのは事実だった。
 腰を引いて、緋ヶ谷の雄を責める手を早めれば、緋ヶ谷は一層泣き喘いで身を捩る。
「ぅあ〝ァあ、ッ!? ♡ ~~ッひグ、ぁ〟、ぁ”あァ~~~……ッ! やめ、ッ、で、ちま、♡」
「出すもの出してすっきりしたのがいいですよ」
「や〝、や〟ァ〝、や〟め〝ろ〟……ッ! ♡ 出る……ッ! ♡ 出ちゃ、ッ♡」
「大丈夫ですから」
「ひゥ〝、う〟う〝う〟……~~~……ッ!! ♡」
 生娘のように泣き喘ぐ緋ヶ谷に、そっと甘ったるく優しく声を流し込めば、それだけでばかになってしまった緋ヶ谷はぶるぶると身体を痙攣させながら絶頂する。出る、と何度も喘いで鳴いた癖にホールに嵌った亀頭からは先走りがだらだら零れるだけで、ぱくぱくと口を開閉させる鈴口からは何も出ない。腰を止めて動かしたがらなくなってしまった緋ヶ谷の代わりにホールをしっかりはめてやり、風耶も責め立てる手を激しくする。
 その途端、風耶の雄を包む媚肉がきゅんきゅんと締まり始め、射精を促すように絡みつく。
 その淫靡な動きに逆らわず、ふうふうと息を上げて悦ぶ緋ヶ谷の壮健な腰を掻き抱いて、責める。
「ッひ、ッ、ひゃ、あ〝、あ〟ァ〝、♡ あ〟ァ〝あぁ〟ァ”~~~~……ッ!! ♡」
「ん…ふふ、そんなにがっついて」
「ァ、♡ は、やく……ッ♡ は、ゃぐ……ッ! ♡」
「はい」
「は、ァ〝♡ …ッィ〟、く…ッ! ♡ イ〝ぐ、イ〟ぐ、イぐィ〝ぐッ、いぐ、イ〟……~~~……ッ!! ♡」
 びくんと身体を跳ねさせて達した緋ヶ谷のすっかり出来上がってしまった媚肉を、容赦なく擦り上げて、淫らに口を開けた結腸弁の奥に熱い飛沫を流し込んでやる。
 それでもなお足りないのか、無意識に腰を振って快楽を貪ろうとする、緋ヶ谷の良く締まった尻を叩いて叱咤すれば、それでまた軽く達したように媚肉が痙攣する。
「……っ、……はぁ……」
「ォ〝……っ♡ ぅう〟……っ♡」
 ずるりと引き抜けば、それすらも気持ちがいいようで、緋ヶ谷がまた小さく震えた。手持ち無沙汰にあまい褐色の肩口へ額を押しつけると、びっくりするほど熱くて互いの体温に溶けてしまいそうだと思った。
「緋ヶ谷さん」
「……ぅ、んッ!?」
 呼びかけて、振り向いた彼の唇に噛み付いて舌を差し込む。そうして口内を蹂躙していれば、おずおずといった様子で緋ヶ谷のそれが応えてくる。
 年頃には旺盛な男として緋ヶ谷はこいびとを名乗る女を何人か抱いているはずなのに、持ちうる風耶への服従か、もしくは被虐欲望が枷となるのか、風耶が歯列を割り開いて誘えば経験のない雌のような従順さで舌を絡めてくる。それがあんまりにも面白くて、思わず喉の奥で笑ってしまうのだ。
 れる、と裏の筋をなぞると途端に厚い舌がびくんと怯え、口の中で逃げ惑うさまは、なんとも言えずいじらしく愛おしい。
 そのままあやす様にとんとんと胸元を撫でてやりながら、上顎の裏の柔らかいところをねぶってつつき、奥に縮こまる緋ヶ谷の舌を引き摺り出して吸ってやれば、次第に力が入らなくなってくる。
「ふ……っ♡ ンぅ……♡」
「ふふ」
「ん”……っ! ♡」
 最後にじゅっと音を立てて吸い上げ、口を離せば、緋ヶ谷はとろんとした目付きで風耶を見つめていた。相も変わらず、しっかりとした造形の青年らしい顔立ちには合わない、そのだらしなく熟れた表情に目を細めて眺め、満足気に笑んだ。
「……そういや、おまえ、買い出しいくって……」
「そういえばそんなこと言ってましたねえ」
 何で火がつくか分かったもんじゃねえな、――と言いたげに眉をしかめてすねる緋ヶ谷の頬にキスをして宥めつつ、風耶は思案する。
「お互いやることないのは本当ですし、いっそのことおうちでゆっくり過ごしませんか?」
「……とか言って、続きしたいだけだろ」
「虐めればいじめただけ出してくれる旺盛な緋ヶ谷さんと違って、私は体力的にも一般人そのものなのでそんなにもちません」
「オレはオレで下に回っただけで相当限界だよ……」
 はあ、と洗面台にしなだれかかって腕をつく緋ヶ谷に、一枚タオルを寄こしながら、風耶はくすくすと笑う。
「ご好評ならまた、これやってみてもいいですよ」
「腹上死させたいなら何も言いやしねえけど」
「ふふ、かわいい緋ヶ谷さんが死んじゃったら申し訳ないので、少しにしておきましょうか」
 それでも少しかよ、なんて肩を竦めてみせる緋ヶ谷の頭をくしゃりとかき混ぜてから、からからと風呂場への引き戸を開ける。
「……しばらくあれはやりたくない」
 背後から聞こえる声に振り返ると、緋ヶ谷は機嫌の悪そうにしながらも、どこか満更でもなさそうな顔をしていた。
「あれだけよがってた割に素っ気ないですねえ」
「やるならお前ので充分だよ」
「そうですか」
 表面的にはぶっきらぼうに返す緋ヶ谷にくすりと笑い、風耶は風呂場へ緋ヶ谷を引きずり込んだ。

あとがきなど

魔法のオナホネタがすきなんだ。